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某日日記  その8

夕飯を兼ねて、なじみにしている近所の居酒屋に。

Mさ来という、いやいや伏字にする意味がないか、えっと、村さ来というチェーン店だ。ここ、チェーン店なのにメニューが個人店以上に充実している隠れた名店だ。ぼくは味覚に鈍感なのだが、連れて行く友人がことごとく絶賛するので名店であることは間違いない、と思う。
このお店のホール担当Mさんは将棋好きで、すいているときは将棋の話をする。店内をぐるっと回るときにぼくの席で立ち止まり、ちょこっと話す。そしてまたぐるっと回り、ぼくの席でちょこっと。その繰り返し。その間合いがなんとも味があって、気に入っている。もちろんぼくが友人と一緒のときは話してこないが、ぼく一人か妻と一緒のときはちょくちょく立ち止まって話す。ぼくの妻が行方ファンということを知っているので、この前は「NHK杯勝ってよかったじゃん」というのが第一声だった。チェーンの居酒屋で第一声がNHK杯将棋トーナメントの内容というのは、なかなかないのではないだろうか。

Mさんはしばらく前、東京将棋会館に通っていたということだ。今とシステムが違っていて、当時のことを聞くのが楽しい。ポイントを集めるとプロと指導対局できるということで、一時期ポイント集めに夢中になっていたということだ。

訪れた晩はすいていたのでたっぷり将棋の話ができた。できれば週イチくらいで通いたいものだとホッピーを呑みながら思う。
 

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2013年6月8日 | コメントは受け付けていません。 |

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(最終選考委員の本)  八丈島のロックンロール

関東交流会の懇親会で木村会長に挨拶する。ぼくは幹事になる前、というより将棋ペンクラブに入会する前から木村センセイのファンだったのだ。ぼくが大学時代、母校でセンセイが悪徳商法の講演会を行ったときは、悪徳商法になんの興味もないのに数時間前から並んでいたほどだ。しかし講演30分前までは、並んでいるのはぼく一人だけだった。
 

「ところでセンセイ、つい先日これを手に入れました!」

ぼくは将棋会館の4階で、ジャケットの内ポケットから木村会長の『八丈島のロックンロール』を出した。

「おー、懐かしい。これ、最初に書いた本だよ」

と、会長は手に取ってパラパラとめくった。
「あれっ、会長、『木村弁護士が駆けてゆく』の方が先では?」

「出版はね。でも書いたのはこれの方が先だよ」
と、内実を明かしてくれる。人が聞いてもなんでもない話だろうが、なにぶんぼくは学生の頃からの木村センセイファン。こんな重要なことをご本人から聞けるとは、実にうれしい。これだけで交流会の参加費の元は取れた。

『八丈島のロックンロール』には写真が載っていて、若き頃の木村会長が写っている。本当はサインをもらいたいところだったが、恥ずかしいのでそれはやめておいた。しかし今度の最終選考会でお願いしようかな、と思っている。

 

 

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2013年6月7日 | コメントは受け付けていません。 |

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関東交流会での対局  第4局

4局目はとん楽師匠と。ぼくが四間飛車で師匠が急戦。ちょっと前までは見回すとこのカタチばかりだったが、最近はとんと見かけなくなった。ついでに言うと、「とんと」という言い回しも聞かれなくなった。年寄りっぽい響きだからだろうか。

となりには幹事の森さんと木村会長が座る。そちらの方は会長の中飛車。

とん楽師匠に見落としがあり、駒得のうえ大駒が成りこめる。それでも師匠、小駒でじわじわ攻めてくる。先ほど逆転されたのを思い出し、がっちりと受ける。師匠、「友達をなくす手だね」。「いえいえ、もともと友達がいないので大丈夫です」とぼく。

なんとなく寄り筋が見えてきたが、寄せていくと、するすると上部に逃げられる。またやっちゃったかと思ったが、馬筋が伸びていて、なんとか詰ます。序盤の優勢が生かしきれない、危ない勝利だった。
となりの森さんと会長は何番も指していた。すべて中飛車。

 

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2013年6月6日 | コメントは受け付けていません。 |

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関東交流会での対局  第3局

3局目はお昼ご飯を食べてから、会員の堅固さんと。堅固さんは神保町で行っている将棋会や、社団戦のペンクラブチームでの仲間。しかし同じチームで痛くない腹をさぐり合うのもどうかということで、これまでほとんど対局したことがない。こんなに顔を合わせているのに、意外にも3年前の交流会以来の対局だ。そのときは堅固さんに受けきられた。

さて対局。こちらが振ると、対抗形が嫌いな堅固さんは相振りに。こちらのスキに、堅固さんが少し悩んだあと大駒を切って一気に攻め込む。こちらは駒得なのだが、と金と金駒で上部をふさがれて攻め潰されそう。しかしここで玉さえ逃げられれば、今度はラクに勝てそうだ。

ともかく受ける。攻め駒に当てたり、角を遠くから利かせたり。次第に堅固さんの攻め駒が減っていき、なんとか上部に逃げられそうな展開に。それにしても実に疲れる将棋。一発飛車をおろした以外、攻める手は一切なし。玉ばかり触っている感じだ。

堅固さんがかろうじて上部を塞ぎ、また押し戻される。じわじわと攻められ、振り飛車だったのに玉は9八に。しかしいくつか指した攻めの手が生きて、最後は勝ちを拾った。じっくりと、2時間近く指してしまったのだった。
 

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2013年6月5日 | コメントは受け付けていません。 |

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関東交流会での対局  第2局

2局目は続けて星野御大と。いつものように穴熊に潜り込もうとする御大に、なんとか阻止しようとするぼく。

御大、このまま囲っていると潰されちゃうと判断して穴熊を放棄。こちらは突っかかりすぎたが、本来の目的は遂げてとりあえず満足。薄い囲い同士の戦いに、こちらの攻めがなんとか繋がり優勢に。しかしこのままいかないのがヘボ将棋の味わい深いところ。勝手に転んで敗勢に。うしろで逆転の恵子さんが苦笑い。この人が社団戦のまとめ役で大丈夫なんだろうかという表情だ。ハイすみません。でも負けて呑む酒もなかなかいいモンですよ。

星野御大、緩むことなくきっちりと詰ませる。うーん、完敗です。今度はこちらが先手番ですよ。

御大との将棋はいつも感想戦がなく、ぼくはおにぎりを取りに、すぐ席を立ってしまったのだった。
 

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2013年6月4日 | コメントは受け付けていません。 |

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某日日記  その7

『某日日記 その3』以降、夏用のズボンを買わなければと気にしながら生活していた。
人間、カレーが食べたいと思うとカレーが頭から離れなくなるように、ズボンのローテーションが少ないと感じるとそれが頭から離れなくなるものだ。

その思いが引き付けたのか、たまたま通った道に服屋が。しかも5月の末で閉店ということで全品3割引きという。その日はまさしく5月31日。まぁこう書くと某日ではなくなってしまうのだが、それはともかくさっそく入店してみた。

店内は旧ソ連のスーパーマーケットを思わせるような品揃え。あちこちの棚がむきだしで、ハンガーに服はまばら。それでも広いお店なので、品数はけっこうある。ぼくはいくつか試着して、スソ上げの必要ないものを2着選んでレジに向かった。

この日で閉店を迎える店主に、そっとズボンを渡した。

ぼくはレジカウンターに積まれているポイントカードをじっと見た。これはもう、明日からは世の中の不用品だ。店主はそんなぼくの視線に気付き、「ポイントカードはご必要でしょうか?」と笑いながら言った。曖昧に笑い返すと、店主は「なんなら全部どうぞ」と続けた。
「じゃあ全部もらって、またあとで来ようかな」とぼく。「いえ、発行当日はご使用できませんので」と店主。「フフフ」とぼく。ニコッと店主。でも眼鏡ごしの目が微妙にじんわりと…。

そんな、ちょいとさびしい感じのやりとりを頭の中に浮かべながら、ぼくは黙ってお金を払い、黙って商品を受けとり、店を出たのだった。

ズボンはなかなかの履き心地なのだった。

 

 

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2013年6月3日 | コメントは受け付けていません。 |

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某日日記  その6

某日、といってもちょっと前だが、池袋の古本屋、「ますく堂」さんへ。

もちろん神保町のアカシヤ書店がいちばんのお気に入りだが、古本屋好きなので他の書店もちょくちょく行く。だいたいなにかしら用事があって出かけるときは、少し早めに着いてその街の古本屋をちらっと覗くのが定番だ。
そんな、ある程度古本屋をめぐったぼくがおススメしたくなるのが、この「ますく堂」さん。古本屋と雑貨店、ジャンクショップが一緒になったかのようなお店。よく、雑多に散らばる子ども部屋のおもちゃが、誰もいない深夜に勝手に動き出すといった設定のアニメや特撮があるが、それを彷彿とさせる店内なのだ。写真を撮るのを忘れたので、文字の説明だけでは伝わりきらないだろうが、とにかく個人経営の古本屋が好きという人は楽しめると思う。

西口を出て劇場通りを渡り、西池袋公園を突っ切ってすぐの税務署のウラ辺り。以前スナックだった店で、扉は呑み屋のそれで古本屋としては違和感たっぷりだが、思い切って開けてみることをおススメする。
 

 

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2013年5月31日 | コメントは受け付けていません。 |

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関東交流戦での対局  第1局

今年の交流会で、ぼくは計4局。まずは始まって早々に星野さんが、「おい、やろうか」。いきなりライバル対決です。星野さんは受付なので、そのとなりに盤と座布団を持っていき、座ります。並べて星野さんが初手7六歩。ぼくは3四歩。星野さん6八飛。さてどうしようと考えていると、部屋の電話が鳴ります。取ると1階からで、ペンクラブ宛に荷物が届いているということ。
「星野さん、下行って荷物を取ってきます。ついでに3階での用も済ませてきちゃいますよ」。そう言って立ち上がります。肉体労働は若手幹事の仕事なので、サッと動かなければいけません。しかし1階と3階に行くとなるとそれなりに時間がかかるので、恵子さんに指し次いでおいてもらうことにしました。

「恵子さん、とりあえずこっちも振って美濃に組んで。それでも戻らなかったら、そのまま指してもらっちゃっていいから」。と、そう言い残してぼくは部屋を出ます。そして階段を小走りで降りて行きます。その間、これからの展開を考えます。恵子さんは代打ちということであんまり突っかかっていかないだろうから、星野さんにあっさり穴熊に組まれている可能性が高いはず。チェスクロック使ってないから、なんだかとんでもなく長くなりそう。相振りだから、なんとか玉頭から攻めていきたいところだなぁ…。

1階でダンボールを預かり、3階に上がって事務室に顔を出すと青野先生から賞品をいただきます。お忙しい中、本当にありがたいです。今度は荷物があるので、落とさないようゆっくり上がっていきます。

で、4階大広間に戻って荷物を置いたぼくに恵子さんが、「もう終わったわよ」。勝ちだと言います。えぇっ!いくらなんでもこんなに早く!?一応は急いで行って来たので、まだ10分も経っていません。盤を見ると、やはりというか、まだ互いに組み上がってもいない状況。

「星野さん、角筋間違えちゃってね。最初こっちもそれに気付かないで取りにいこうとしちゃったのよ」。なんと8八から5六に出てしまったようです。反則負けで短手数での決着とのこと。「いやぁ星野さん、こりゃうっかりしてしもうた中山ですねぇ」とぼくが豊川七段ばりにからかうも、無言。苦虫を噛み潰したような表情でした。

「一応代打ちとはいえ、こちらの1勝ですね」。と、恵子さんと場所を代わりながら言うと、星野さん、さぁ次ぃ、とヤケっぽく言いながら駒を並べ始めました。

 

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2013年5月30日 | コメントは受け付けていません。 |

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「個性」に逃げられない職業

FELTというバンドが好きで、ほぼ毎日聴いている。英国の、80年代中頃から90年代にかけて活躍したバンドだ。

知っている人は、「あぁ、あのバンドね」と、呆れ顔で言うかもしれない。このバンドには大きな特徴があって、多くの曲でボーカルが音程をはずしているのだ。

音程をはずす…。知らない人が聞けば、とても聴くに耐えないゲテモノに感じるかもしれない。音楽を奏でることが職業である以上、音程を合わせるのは基本中の基本でしょう、と。

しかしこれが不思議なところなのだが、この音程はずし、とても魅力的に響き、ひとつの個性になっている。もちろん万人に受け入れられるものではないが、濁りのないクリアーなギターや弱めのドラム音にうまい具合に合っていて、英国ロック好きの一部を惹きつける独特の世界観を打ち出しているのだ。ホントかなと思う人もいるかと思うが、実際10枚程度アルバムを出し、そこそこのセールスがあったのだ。

こういった、個性だけでやっていているアーティストというのはけっこういる。ぼくがよく聴くものだけ挙げても、New Order、Nick Lowe、The La’s、Joy Division辺りは、誇れるテクニックなどなく、独特の魅力でファンを惹きつけている。

ジャンルが違うのでしょうがないが、こういった音楽を聴いていると、棋士というものは厳しいなぁと思う。棋士は独特の個性だけでは続けていけず、なによりテクニックが必要だからだ。
棋士にだって指し手にそれぞれ個性があるが、勝つという絶対条件下の元なので、基本をまったく度外視したものとまではいかない。ミュージシャンの個性は、「テクニックがなんだ! これがおれの個性だ!」とテクニックにわざと反発したものが多いが、棋士の指し手の個性は勝つために編み出したテクニックの延長線上のものだ。個性の性質がまるで違う。

棋士は、テクニックとは別のところで魅せることのできない職業だなぁと、CDを聴きながら時おり思うのだった。

 

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2013年5月29日 | コメントは受け付けていません。 |

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某日日記  その5

某日、三上さんと落ち合い、2次選考委員に送る書類一式を渡す。
これは毎年のパターン。書類を作成した犬塚さんからぼくに転送され、大きさをそろえて2次選考委員の人数分プリントアウトし、三上さんに手渡しするのだ。三上さんに渡したところで、ようやく1次選考が済んだとホッとするのが例年の習いだ。

そして三上さんと居酒屋でカンパイ。三上さんとのお酒は旨く、これが味わいたくて1次選考をやっているようなものなのだ。

いつもは三上さんの馴染みに行くのだが、毎回お世話になっているので、今年はぼくの地元の隠れ家的な呑み屋に行った。西武ファンの三上さんとまずはペナントの話。ぼくと三上さんは西武線沿線でライオンズの地元なので、堂々と話せるのがいいところ。三上さん、つい先日も観戦に行ったとのこと。あの球場で飲む狭山茶が不思議と美味しいのだ。

そして将棋の話。三上さんは熱狂的な羽生ファンでぼくは渡辺ファンだが、話は和やか。羽生さんのNHK杯は残念だったと三上さん。嘆きながらもチュウハイをおかわり。渡辺さんに早いところ名人戦の舞台に出てきてほしいとぼく。そしてホッピーをおかわり。ファンというものは困ったもので、際限なく活躍を求めてしまう。

さらには本の話。三上さん、あれだけお忙しいのに、いつ本を読んでいるのだろう。文芸全般にお詳しく、いつも三上さんから情報を仕入れさせていただいている。それにしても、三上さんが小説を語ると、とても読んでみたくなる。穏やかな口調ながら情緒的。それでいて核心をもったいぶる遊び心。ブックレビューの番組に出演したら、きっと名物コーナーになるはずだ。

いろんなことを話しているうちに、そろそろ看板の時間に。一年に一度の楽しい時間は、あっという間にすぎてしまうのだった。

 

 

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2013年5月28日 | コメントは受け付けていません。 |

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