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神保町酔いどれ幹事録 (3)

某日
この日は待ちに待った神保町将棋会。今年初だ。
楽しみにしていただけあって、早く目覚める。なんとなく遠足の日の子どものよう。
出発までワードを起こして文章を書いていると、自著の出版社から電話が来た。
「実は本が、今日埼玉新聞に載りましてですね…」
昨年の秋に川越市役所で受けたインタビューが、なんの前触れもなく今日載っていたという。それはすごくうれしい知らせだが、埼玉新聞というのが困ったところ。せっかく自分が載っているのだから手に入れたいが、私の住んでいるところは端くれとはいえ東京都。埼玉新聞は売っていない。
さて、どうやって手に入れるか。
そこで和光市在住の湯川恵子さんに電話。湯川夫妻も将棋会に参加だが、博士さんは携帯電話を持っていない。だから自然と連絡は恵子さんになる。
「あ、恵子さんですか。東上線の本が今日埼玉新聞に載ったみたいなんです」
「あらぁ、おめでとう。よかったねぇ」
私の本は湯川博士さん、恵子さんのご夫婦に解説を書いていただいているのでいろいろと気にしていただいているのだ。
「それでですね、お手数なんですが将棋会に来るときに駅で一部買ってきてくれませんか」
「ごめん、私今日風邪ひいちゃって将棋会欠席なのよ」
「え、恵子さんが?」
「そう」
「えーっ、それはとっても残念! 逆ならよかったのにぃ」
「ハハハ」
「ハハハ」
お互い笑いあって電話を切る。
それではもうお一方、埼玉から参加するKさんに電話を入れる。
「あ、Kさん、本日はよろしくお願いします。で、ワタクシ本日の埼玉新聞に載りましてね、下着ドロボーで。お手間ですが一部買ってきてくださいますか」
「それはそれは。さぞかし大きく載ってるんでしょうね」
と、Kさん了承してくれて、私はホッとしながら将棋会へと向かっていったのだった。
(つづく)
 

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2013年1月30日 | コメントは受け付けていません。 |

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神保町酔いどれ幹事録 (2)

某日の続き。
中野さんとサシで呑むのは久しぶりだ。ペンクラブの幹事会後は必ず呑み会で、中野さんと席がとなりになることもあるのだけど、私も中野さんも湯川師匠の単なるリスナーとなってしまうのでなかなかゆっくり話せない。この日は貴重な日だった。
中野さんは元「近代将棋」編集長で、まだサラリーマンをしていた頃の私は講読していた数ある雑誌の中で、「近代将棋」が最も発売を心待ちにする雑誌だった。発売日、仕事帰りに買うと、すぐ電車の中で読み始めたものだった。一番のお気に入りだった雑誌を仕切っていた人物と知り合え、しかも一緒に呑めるというのは本当に幸せなことだ。私は中野さんと呑むたび、当時連載していた記事のことなどをあれこれと聞くのだ。
この日もそう。「近代将棋」の当時のお話を聞き、その流れで棋界や棋士のこともいろいろと聞く。昭和を感じさせる年季の入ったお店の雰囲気も手伝い、和やかな気持ちになる。壁に貼られているメニューからぽつりぽつりと注文し、私は酒を呑み、中野さんは酒に呑まれる。とってもとってもいい時間だ。
そして星野御大が登場。帽子がカッコいい。
「やぁ星野さん、売り上げ持ってきてくれましたか?」
「いや、呑めるほどの売り上げなかったよ」
そんなやりとりのあと、あらためてカンパイ。御大は最初から熱燗だ。
千代田図書館の古書展から、話題は自然と古本のことに。古本好きの私にとっては、これまたうれしい話を聞ける。
我々の話は尽きず、どんどんお代わりして、神保町の夜は更けていくのだった。

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2013年1月28日 | コメントは受け付けていません。 |

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神保町酔いどれ幹事録 (1)

(1)
某日、急遽、夕方神保町へ。
千代田図書館では2ヶ月程度のペースで「としょかんのこしょてん」という企画を行っている。今回は棋書(将棋)の展示(1月28日まで。29日から2月25日までは囲碁)ということでアカシヤ書店さんの出番。星野御大から幹事にお知らせメールがあり、さっそく中野さんが「見に行きますのでその後に一杯いかがでしょう」という返信を送っていた。わたくし、このインサイダー情報に乗らない手はないと思い、特段他に用はなかったのだが寒風吹くなか神保町に向かっていったのだった。
到着が遅れることを連絡すると、中野さん、喫茶店で詰め将棋をして待っているという。社団戦5部でもほとんど勝ち星のない私はこういうところをおおいに見習わなくてはいけないのだが、電車内で開いた本は「ビブリア古書堂の事件手帖」。どうしても棋書よりも小説を開いてしまう。棋力が上がらないわけだ。
九段下に着いた時点で中野さんに連絡を取り、いつものように一駅分歩いて神保町入り。そしてアカシヤ書店で落ち合う。星野御大はお店が終わってから合流することに。
休日なのだが珍しく魚百がやっていて迷ったが、この日は酔の助にした。『本の雑誌』の昨年11月号のはみ出し神保町情報で「将棋ペンクラブの会合は魚百!」と暴露されてしまったが、実は酔の助を使う率も高い。いや、そもそもそれ以上に、2軒ハシゴする率の方が高い。
ところで世の中にはいろいろと便利な言葉があるが、「いい意味で」という前置き言葉も使い勝手がいい。これを付けると悪い意味合いの言葉でも面と向かって堂々と言えてしまったりするのだ。「みすぼらしい」なんて言葉も「いい意味で」を付ければ斬新な着こなしをしているように思えてしまうし、「口うるさい」だって「いい意味で」を付ければ立派なご意見番の人物に感じてしまう。で、中野さん、いい意味で酔っ払いなのだ。これはもう、呑まれる酒も中野さんに呑まれてシアワセだろうなぁと思えるほどの酔っ払い。もちろんいい意味で、なのだが。
冷たいビル風の吹くなか、中野さんと私は酔の助へと入っていったのだった。(つづく)

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2013年1月26日 | コメントは受け付けていません。 |

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