某日日記 その7
『某日日記 その3』以降、夏用のズボンを買わなければと気にしながら生活していた。
人間、カレーが食べたいと思うとカレーが頭から離れなくなるように、ズボンのローテーションが少ないと感じるとそれが頭から離れなくなるものだ。
その思いが引き付けたのか、たまたま通った道に服屋が。しかも5月の末で閉店ということで全品3割引きという。その日はまさしく5月31日。まぁこう書くと某日ではなくなってしまうのだが、それはともかくさっそく入店してみた。
店内は旧ソ連のスーパーマーケットを思わせるような品揃え。あちこちの棚がむきだしで、ハンガーに服はまばら。それでも広いお店なので、品数はけっこうある。ぼくはいくつか試着して、スソ上げの必要ないものを2着選んでレジに向かった。
この日で閉店を迎える店主に、そっとズボンを渡した。
ぼくはレジカウンターに積まれているポイントカードをじっと見た。これはもう、明日からは世の中の不用品だ。店主はそんなぼくの視線に気付き、「ポイントカードはご必要でしょうか?」と笑いながら言った。曖昧に笑い返すと、店主は「なんなら全部どうぞ」と続けた。
「じゃあ全部もらって、またあとで来ようかな」とぼく。「いえ、発行当日はご使用できませんので」と店主。「フフフ」とぼく。ニコッと店主。でも眼鏡ごしの目が微妙にじんわりと…。
そんな、ちょいとさびしい感じのやりとりを頭の中に浮かべながら、ぼくは黙ってお金を払い、黙って商品を受けとり、店を出たのだった。
ズボンはなかなかの履き心地なのだった。
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2013年6月3日 | コメントは受け付けていません。 |
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