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(最終選考委員の本)  草競馬流浪記

東京で文学的な街は、と問われればパッとあがるのは神保町、吉祥寺、国立といったところだろうか。その中で国立は、外れにある分他の街より落ち着いた雰囲気がある。
パチンコ屋やネオン街がなく、広い並木道に高校、大学が点在する。駅舎こそ味気なくなってしまったものの、駅前ロータリーから放射状に延びる道には高い建物が少なく、たしかに国立には他の街にはない、文学的な匂いがある。そしてその文学的な雰囲気に一役買っているのが、山口瞳だろう。
 
将棋ペンクラブ大賞の第1回から第6回までの最終選考委員を務めた山口瞳。ぼくは将棋ペンクラブの幹事になる前から、いやいや、入会する前から、彼の作品の愛読者だった。彼は長く国立に住んでいて、住んでいる街のことを作品によく出していた。
 
たくさんの著作がある作家のファンというのは大抵そうだろうが、ぼくも彼の代表作より一般にはそれほど知られていない著作がお気に入りだ。これは山口瞳と親交のあった我が師匠湯川博士の格言めいた言葉だが、「金の儲かる仕事ほどつまらない!」という。金が安ければ安いほど、やっていて手応えがあって面白いというのだ。この言葉に当てはめれば売れない著作ほど書き応えがあったということで、代表作でない著作を推すのはその作家の欲している評価をしていることなのかもしれない。などと自分勝手に思ったりする。本当はファンの方が、「こんなの知らないでしょう」という天の邪鬼からセレクトしている気持ちが強いのだけど…。
 
で、ぼくのイチバンは『草競馬流浪記』。兆治でもなく江分利満でもなく。持っている本は確か3代目だが、何度も読み返してもうボロボロ。全国の地方競馬を旅打ちした本で、枕元に置いてナイトキャップにしていた時期もある。後追いで各競馬場をまわったが、時既に遅しで多くの競馬場が廃止になっていた。だからこの本、今では貴重な資料でもある。
 
競馬好き、ギャンブル好きでないとなかなか楽しめない本ではあるが、ぼくにとっては名著です。国立の街の喫茶店で読むと、さらに格別。
 

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2013年4月23日 | コメントは受け付けていません。 |

カテゴリー:ブログ

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