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(ペンの方の)雑記  春の雨

昨晩は春の雨。水曜日の晩も雨で、東京ではどちらも本降りの時間が短かったが、ぼくは運悪くちょうどそのいっときに当たってしまった。それでも春の雨のこと、さほど寒くもないので傘は差さずに濡れて帰った。
 
 
この春は雨が降ると、昨年のある晩のことを思いだしてしまう。それは夢枕獏さんの吉川英治文学賞の受賞パーティーの晩で、今時分と同じような、寒さをそれほど感じさせない春の雨だったのだ。
会場は帝国ホテルで大きなパーティーだった。あ、大きなパーティーなんて子どもっぽい表現か。えっと、盛大なパーティーだった。で、そんなところになぜぼくが顔を出せたのかというと、これがペンクラブのおかげで、幹事の湯川恵子さんが連れて行ってくれたのだ。
 
これは獏さんの著作にちょいちょい出てくるので知られた話だが、恵子さんと獏さんは高校時代の同人誌仲間だった(ギュッと縮めると、「同志」だ)。同じ高校の同じクラブから売れっ子作家と女流アマ名人が出るというのはすごい確率だが、ともかく大学時代から獏さんの愛読者だったぼくは、よく恵子さんに、将棋のことそっちのけで当時の同人誌のことを聞いていた。そして日本酒を呑みながら、恵子さんは懐かしそうに当時のことを語ってくれるのだった。
 
そんないきさつで、獏さんからパーティーの案内状が恵子さんに届いたときに、ぼくを同行させてくれたのだった。
パーティーでは立場をわきまえておとなしく佇んでいようと考えていたのだが、あいさつが終わるなり、「せっかく来たんだから、さぁ食べよう!」と恵子さんが腕を引っ張る。あたふたと恵子さんに付いて料理の並ぶテーブルに行き、2人でひと通り皿に盛った。けっこう山盛り。それをパクパク食べながら、恵子さんの知り合いの方々とあいさつ。ちょっと欲張りな感もこれは正着で、話している間に早くも並んでいる料理がなくなっていった。さすがパーティー慣れしている恵子さんの読みはすごい。駒は取れるときに取っとくに限る。
 
恵子さんは知り合いが多く、次々と紹介してもらった。さらには料理を腹におさめて皿を片付けたと思ったら、つかつかと獏さんのところに向かっていってぼくを呼ぶ。アワワワと、ぼくは拳の指側を口元に当て、などというベタなリアクションこそしなかったが、ちょっと慌て気味に獏さんの前に行き、そこでにこやかな獏さんとほんの少しだが、お話しさせてもらった。
 
まだまだ賑わっていたが、帰りがけにちょっと呑んでいこうかということで会場をあとにした。このさらっとしたところが恵子さんの魅力のひとつだ。
クロークで上着を取って下に降りる。ホテルを出ると、雨が強まっていた。これでは移動がむずかしいと、我々は近くの喫茶店にビールがあるのを確認して入った。ビールを頼み、つまみも欲しかったが、これは閉店間際だったので乾き物のミックスナッツだけでガマンした。
 
ぼくはこの日、この喫茶店での恵子さんとの時間が印象に残っている。照明の暗い店内に、客は本を読んだりノートパソコンをいじったり。ビルと公園にはさまれた大通りは暗く、横殴りの雨が街灯とヘッドライトに照らされるだけ。落ち着いた雰囲気ではあるけれど、侘しくも感じてしまう。平日の、パーティーのあとの、深夜に向かういっとき。そんななか、恵子さんといろいろ話しながらビールを呑む。
 
もちろん豪華なパーティーだって強く印象に残っている。でも、この1時間弱のビール一杯の時間。これが風になびく雨と相まって、より強く記憶に留め置かれてしまった。
これから毎年、春の雨が降るたびに思い出すのかなぁ。そんな感じがするのだった。
 

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2013年4月27日 | コメントは受け付けていません。 |

カテゴリー:ブログ

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