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「個性」に逃げられない職業

FELTというバンドが好きで、ほぼ毎日聴いている。英国の、80年代中頃から90年代にかけて活躍したバンドだ。

知っている人は、「あぁ、あのバンドね」と、呆れ顔で言うかもしれない。このバンドには大きな特徴があって、多くの曲でボーカルが音程をはずしているのだ。

音程をはずす…。知らない人が聞けば、とても聴くに耐えないゲテモノに感じるかもしれない。音楽を奏でることが職業である以上、音程を合わせるのは基本中の基本でしょう、と。

しかしこれが不思議なところなのだが、この音程はずし、とても魅力的に響き、ひとつの個性になっている。もちろん万人に受け入れられるものではないが、濁りのないクリアーなギターや弱めのドラム音にうまい具合に合っていて、英国ロック好きの一部を惹きつける独特の世界観を打ち出しているのだ。ホントかなと思う人もいるかと思うが、実際10枚程度アルバムを出し、そこそこのセールスがあったのだ。

こういった、個性だけでやっていているアーティストというのはけっこういる。ぼくがよく聴くものだけ挙げても、New Order、Nick Lowe、The La’s、Joy Division辺りは、誇れるテクニックなどなく、独特の魅力でファンを惹きつけている。

ジャンルが違うのでしょうがないが、こういった音楽を聴いていると、棋士というものは厳しいなぁと思う。棋士は独特の個性だけでは続けていけず、なによりテクニックが必要だからだ。
棋士にだって指し手にそれぞれ個性があるが、勝つという絶対条件下の元なので、基本をまったく度外視したものとまではいかない。ミュージシャンの個性は、「テクニックがなんだ! これがおれの個性だ!」とテクニックにわざと反発したものが多いが、棋士の指し手の個性は勝つために編み出したテクニックの延長線上のものだ。個性の性質がまるで違う。

棋士は、テクニックとは別のところで魅せることのできない職業だなぁと、CDを聴きながら時おり思うのだった。

 

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2013年5月29日 | コメントは受け付けていません。 |

カテゴリー:ブログ

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